雪の降る町で
どこからともなく鈴の音と共に定番のクリスマスソングが聞こえてくる。
彼女との待ち合わせ、今日は12月25日。
世の中に溢れるほどにカップルが愛を感じるこの日に、僕たちはそれと共に記念日としてこの日にデートをする。
彼女と一緒にいた時間は、もう3年になる。
3年前のこの日に、この大きな街頭のツリーの下で、僕たちはお互いの気持ちを打ち明けた。
そういえば泣いてたかな、あいつはあの頃からよく泣く。
そしてなだめるのも僕だ。
3年なんてあっという間だ。僕たち二人が出会い、恋に落ちる時間よりもずっと。
だいぶ寒くなってきた。
無理も無い、今日は雪が降るともいっていた。
世の中はホワイトクリスマスと騒いでいるが、僕は彼女がいるだけでいい。
他はなにもいらない。
吐く息が白い。少し耳が痛いな。
そんなどうでもいいことばかり頭をよぎる。
そろそろ約束の時間。君からのメールの着信音がなった。
大塚愛の「大好きだよ。」彼女が設定した着信音。少し恥ずかしいな。
「少し遅れる(><)」
ちょっと肩を落とす自分がいた。
でも、よくあることだ。僕もたまに遅刻して怒られる。
近くにあった自販機で熱いコーヒーを買ってカイロ代わりにしつつ体を温める。
そういえば、最近コーヒーなんて買ってなかったな・・・まぁもともと飲まないからな。オヤジになったものだ。
周りはせわしなく、人が何人も行き来する。クリスマスソングに人の足音。
その中に、
「ごめんごめん、遅くなったね。」
とっさに振り向くと、そこには違うカップルがいた。彼女が遅れてきたのだろう。男の方は少し不機嫌そうだ。
心の中で、ベタだなぁと自分で笑ってしまった。
彼女を待って何分待ったんだろう。だいぶ時間の感覚がなくなって来た。
「まだかな・・・」
そう白い息とともにでたつぶやきの後に、頬に冷たい物があたった感触がした。
雪だ。
白い、小さな結晶。
まるで天使がこの日の全ての人に祝福をしてるかのよう。
ぼーっとその神秘的な光景に目を奪われる。クリスマスソングと足音に混じって、少し荒い息遣いで僕の名前を呼ぶ声がした。
「ごめんね。すごくまたせちゃって・・・」
そこには彼女の姿があった。
仕事から終わって走ってきたのだろう。その息はだいぶ荒く、少し苦しそうだった。
そんなに急がなくっても、僕は逃げないよ?っとすこし笑いながら言うと
「あなたに、すぐ会いたかったから・・・」
と、彼女は顔を赤らめながらそういった。
「あ、あと。これ、プレゼント。」
少し大きめの紙袋、開けてみてみると、それはマフラーと手袋だった。
これ、自分で?僕がそう聞くと、彼女は恥ずかしそうにうなずいた。
他の人が聞いたら、ありきたりなどと言われるかもしれない。
でも僕はそのありきたりな物に最高の愛を感じた。
「じゃあ僕からも。目を閉じて。」
そう言って彼女が目をつぶるのを確認すると、僕は彼女の左手の薬指に指輪をはめた。
「これ・・・」
彼女がそう言ったのと同じぐらいのタイミングで、僕は彼女を抱きしめた。
「結婚しよう。これから・・・ずっと一緒にいよう。」
少し前に決めていたことだった。
この日に、最初に出会ったこの場所で言おう。永遠の愛を誓おう。と
彼女はその言葉に返す言葉がでず、そのかわりに涙を流した。
小さい、冷えきったその体。
彼女は、僕が抱きしめている胸の中で何度も何度もうなずいた。
3年前と同じクリスマスツリーと、空から降る白銀の結晶の見守る中で…