天国の本屋 第3章 



「私は三瀬葵って言います。アルバイトさんのお名前は?」


「俺は奥蝉蒼士って言います。変わった名前でしょう。」


正直この名前はあまり好きではない。子供の頃から蝉やら蟲やら呼ばれていたから。

「二人とも青いって意味の言葉が入ってるんですね。」


「あ、ほんとだ。偶然ですね。」


そういいながら二人で笑っていた。顔をずっと引きつり気味でいたので少し楽になった。


「じゃあ蒼って呼ばしてもらってもいいですか?私は葵でいいですよ。」

急だった。俺の心はまた焼けるように熱くなった。


「嫌ですか・・・?」


彼女は僕の顔を覗き込んでそういった。


「いや、嫌というか・・・なんというか・・・」

「はずかしい・・・ですか?」


彼女はまた僕の心を見透かすようにほのかに笑った。


「図星ですか?」



「・・・からかってますか?」


「はい。」



そう彼女は笑った。


「蒼は恥ずかしがりやさんですね?」


「あなたがそうさせてるんですよ…」


「私はただ聞いてるだけですよ??」


僕はこのとき彼女が意外と意地悪という事に気付いた。





いや、気付かされた…といったほうがいい…







そうこうしてるうちに主人が帰ってきた。


その腕には野菜やらなにやらがいっぱい詰まったカゴがあった。



「あぁ、起きたのか。嬢ちゃんも一緒か。どうせその坊主をからかってでもいたんだろ。」


親父は読みが鋭かった。


「あら、からかってなんていませんよ? ねぇ蒼さん?」


彼女は軽く僕にウインクをした。




「まぁちょうどお前を呼びに行こうとしたところだ。今日は鍋にするから。」


「わぁ、ありがとうございます。」




葵は頭をさげ、お辞儀をしていた。




「お前も食うんだぞ、坊主」


「あ、はい…ありがとうございます…」





急にふられて不意をつかれてしまった。まださっきの事で同様しているのだろうか…





そろそろ夜が近いようだ。


外の道は、日が照っているこの時間が過ぎるのを惜しいように


また後に来る夜道を待ち遠しくしているように


今の夕日を浴びていた。






[to be continued・・・]