天国の本屋 第2章
気が付くと外の空は真っ赤に焼けていた。そんなに寝てしまったか。
下に下りていくと主人の姿は無かった。どこか買い物にでも行っているのか。
こんな時に誰か来たらどうするんだ、と思いながら先ほどまで主人が座っていた座布団だけしかない接客以外は座って本や新聞を読むだけのスペースに座った。
入り口から射す夕日の光が、やけに俺の心に染みてくる。
そう言えば、田舎の、子供の頃よく行っていた本屋もこんな感じのところだったっけ。
親父さん、元気にしてるかな。
そういろいろと考えていた時、入り口の方に影が見えた。
主人が帰ってきたのだろうと思い、あまり気にもせずに横にあった新聞の一面を、開かずに読んでいた。
「あの・・・今日はいつものご主人じゃないんですね。」
胸が一瞬焼けそうになったのを覚えている。ほんの少し間が空いて顔を上げた時に前に立っていたのは、長い黒髪の清楚な女の人であった。
「また、ご主人の話を聞こうと思ったのですが、いらっしゃらないのなら仕方ないですね。」
見とれていた。その、あまりにも輝かしいその美しさに。こう表現するのは変だと思われるかもしれないが、ほんとうに美しい人だった。
「ど、どこかその辺までいったようなので。もう少ししたら戻ってくると思いますよ。」
なぜかたどたどしくなる。これではこっちの心は丸見えといってもいいだろう。
「くすっ、おもしろい方なんですね。そういう方、嫌いじゃないですよ?」
何だこの人の笑顔は・・・全てを忘れさせてくれそうな、明るい笑顔。
店の入り口からさし込んでくる夕日にその人は、その真っ白なワンピースを輝かせながら眩しすぎるくらいの笑顔をしてくれた。
「アルバイトの方ですか?この町にご主人以外の人もあまりないので。」
まぁ当然の質問。俺もこの町に来てから主人・・・いや、親父さんしか人は見たことが無い。
「まぁそんなところです。何処にも行くところが無いので、親父さんに厄介になってるんですよ。」
「そうですかぁ。行く所・・・見つかるといいですね。」
そうやって彼女は微笑んだ。その笑顔一つ一つに引き込まれそうになる。彼女から目を話すことが出来ない。
「じゃあ・・・」
そういうと彼女は僕の横に座った。
「今日は、アルバイトさんが私にお話をしてくれませんか?」
正直少し固まってしまった。急だったのもあるが、俺はもう帰ってしまわれるものだとばかり思っていた。それが・・・俺と話しだなんて・・・
「どうかしましたか?」
「い、いえっ。でも何を話せばいいのか・・・。そんな面白い話もできないですし・・・」
「あら、御互いの自己紹介もしていないのにいきなり面白い話しするなんてできるんですか?」
そう言うと彼女はまた笑った。その笑顔が俺を癒してくれる。心の奥から。
[to be continued・・・]