天国の本屋


気が付けば何処かの町にいた。

見知らぬ町。でもなぜか何処に何があるかとかはわかった。

不思議な町だ。心を癒してくれそうな、そんな雰囲気の町。

遠くのほうで俺を呼ぶ声がした。そんなはずは無い。ここに俺を知ってる人なんていない。

何故それがわかる?  わからない。直感的にそう思った。

ずっと歩くと右にはいつも吠える犬がいる。

その3軒先は古い定食屋。

頭の中に浮かんでくる。 でも見覚えの無い町。

そんな町を俺はどこにいくでもなく歩いていた。

歩いてるうちに気付いたことだが、人気が全く無い。


空は明るく、まだ昼頃だろう。それなのに人一人歩いていない。



「変な町だな。」



そうつぶやくだけであまり深く考えず、また歩き出した。

何分、いや何十分歩いただろう。ずっと人のいない通りを歩いていた。

その間にも頭の中にはその町のことが浮かんでくる。

歩いていると、覚えの無い古い本屋があった。


覚えの無いのはあたりまえだが、さっきまで見えていた頭の中にある町の風景にこんな本屋はなかった。

興味本意で入ってみると、学術書やいかにも古本といったようなほんが所狭しと並んでいる。

中には妖しげな、訳のわからない本まであった。




「あんた、見かけない顔だね。新入りかい?」




奥から太い、渋い声がした。

見ると頑固で、いかにも威厳のある店主といった感じのする男の人だった。


「ん?あんた、まだここに来る人じゃないな。どうやってこんな所に来たんだ?」


「こんな所?どうやってって言われましても・・・気がついたらここにいたので・・・」


「ここに来る前は?」


「・・・覚えていません。というより思い出せないんです。」


「そうか。まぁ無理に思い出すことは無い。どうせずっとここにいるわけじゃないからな。」


そういうと店主はおいてあった新聞を広げてさも深刻そうに読み出した。




「あんた、どうせ行く所なんて無いんだろ?」


・・・なんのことだ?


「まぁあるはずもないな。うちに泊まっていけ、あんたが戻るまでずっと居ていい。」


「戻るって・・・どこへ?」


「それはしらん。それはお前さん自身が見つけることだ。まぁあせらんでもすぐ見つかる。」


「はぁ・・・」



何をいってるのか全くわからない。

でもまるで、この人は俺がどうやって、どうしてここへ来たのかも知ってるような口調で話す。





部屋は2階を使えと言われた。

思ったとおりそんなに綺麗ではないが、日が良く射す、雰囲気の良い部屋だった。

しかし荷物も無いし着替えも無い。

どうすればいいか迷ってると、部屋の隅に大きいとはいえない箪笥があった。


おそるおそるあけると、なんと自分が着ている服があった。下着も、シャツも。



「その中に入ってるのはあんたのだから、好きに使いな」


下からあの渋い声が大きめの声で聞こえてきた。

少し横になろう・・・

いろいろあって頭が痛い。俺はどこからここへ来たのだろう。

なにが目的なんだ・・・




何が・・・




そう思ううちに、うつらうつらと浅い眠りに落ちてしまった。




[to be continued・・・]