金木犀

外も涼しくなってきた。

空はオレンジ色に染まり、秋の訪れを告げる。

君と…過ごした時間が、過ぎていく。


君は今日僕の手から離れる。

それはすごくすごく喜ぶ事だ。

すこし前まで僕の腰元辺りまで無かった身長が

今じゃ僕より少し低いぐらいまでになった。


すこし前までずっと泣き虫で

僕の足元でしがみつきながら泣いていた君が

今じゃ僕にありがとうと言ってくれる子になった。


自転車に乗れなくて、ずっと泣いてた頃が

昨日の事のように、頭の中に浮かんでくる。

君が大学を選ぶとき、やりたいバスケを続ける方向に行くかどうか

悩みながらずっと泣いてたあの時も

すこしでも力になろうと色々聞いてあげたっけ。


そんな、すごくすごく繊細な子だった君が

今日は僕に晴れ姿を見せてくれた。

いままでありがとうと言ってくれた。


今日は僕が泣きそうになった。


年甲斐も無く、お母さんはずっと泣いてたっけ。

そんな君が今日、僕とお母さんにくれた物がある。


いっぱいに束ねられたカスミソウと

その中心に、ほんの少しだけ

僕たち家族が大好きだった金木犀を挿して

僕とお母さんにくれた。



そんな今日も少しずつ過ぎていく。


これから皆と飲んで騒ぐけど

また君に呑みすぎで怒られるんだろな。

今日は控えめにするよ。


そんなことを考えていると

この真ん中の金木犀の香りを

夕日の中の風が

優しく僕に届けてくれた。